森友学園問題:大風呂敷はたたむ頃合い

いわゆる鴻池事務所メモが公開され、興味深く読んだ。

メモを読んでみると、籠池理事長が全くゼロの状態から国有地取得にむけあれこれ活動してきた経緯が伺われる。

最初から筋書きがあるのであれば、おそらくそのようなことにはならない。座して待っていても、それこそ「よしなに」取り計らってくれるだろう。

 

あまり注目されていないが、籠池理事長が2014年1月時点で売却予定額を15億円と想定していたことは、なかなかに重要と思われる。

この15億という想定は、かなり的はずれな想定である。おそらく路線価をもとにしたのであろうが、国有地の価格は基本的には台帳価格ベースで決まる。

当時における当該土地の台帳価格は約7億6千万円であり、売却額がその2倍の額になることは、まあ有り得ないといっていい。台帳価格が一般的には実勢価格の8割であることから、売却額はその2割増が相場と聞く。

すなわち籠池理事長は、ある程度交渉が進んだ段階においても、その程度の認識しかできない立場にいた、ということだ。最初から政治家とグルなのであれば、先んじた大阪音大との交渉経過を含め、売却予定額が10~9億の線になるという情報は、その頃にはとっくに耳に入っているはずである。

 

前回話題にした登記簿の件などを含め、政官一体となって森友学園に国有地を格安譲渡するための巨大な策謀があり、そのような強力な政治力を発揮できるのは安倍総理しかいない、というような意見がこれまでは一部見られた。

そういった理路での追及はもはや無理筋になりつつある。

森友学園問題:登記簿の「錯誤」について語るのであれば最低限抑えていてほしい事実関係

森友学園問題 「錯誤」登記をめぐる謎 | 郷原信郎が斬る

国から新関空会社への現物出資は、「関西国際空港及び大阪国際空港の一体的かつ効率的な設置及び管理に関する法律」に基づいて行われている

とのことなので、その法律を見てみる。

関西国際空港及び大阪国際空港の一体的かつ効率的な設置及び管理に関する法律

附 則 抄
(引用者略)
(承継時の出資)
第五条
(引用者略)
 政府は、第六項の規定による株式の引受けに際し、会社に対し、政府の保有する関西空港会社の株式及び社会資本整備事業特別会計の空港整備勘定に所属する国有財産のうち大阪国際空港に係るものを出資するものとする。
 機構は、第六項の規定による株式の引受けに際し、会社に対し、機構が前条第三項の認可を受けた実施計画(同条第四項の認可があったときは、変更後のもの。次条第三項において「機構承継計画」という。)において定めるところに従い、その財産のうち大阪国際空港に係るもの(次条第四項の規定により同項の政令で定める関係地方公共団体に対して分配される財産を除く。)を出資するものとする。
10  前二項の規定により政府及び機構が行う出資に係る給付は、この法律の施行の時に行われるものとする。

関連があるのは上記あたりだろうか。

では「この法律の施工の時」とはいつであったか。

報道発表資料:関西国際空港及び大阪国際空港の一体的かつ効率的な設置及び管理に関する法律の施行期日を定める政令について - 国土交通省

関西国際空港及び大阪国際空港の一体的かつ効率的な設置及び管理に関する法律の施行日(関西国際空港大阪国際空港の経営統合日)を平成24年7月1日とする。

これらより、当該出資は平成24(2012)年7月1日に行うと法律で決まっていることがわかる。

 

そこでこの資料を見ていただきたい。

第119回(平成24年2月14日)開催結果PDFファイル(PDF形式:433KB)

まず、空港本体につきましては、土地が280平方メートルのほか、消防庁舎などの新会社が空港運営上必要とします建物、施設が出資されることになります。また、空港場外にございます、伊丹空港周辺にあります移転補償跡地約80万平方メートルにつきましても出資をされることになります。
ただし、伊丹空港周辺の跡地の中で、近々に処分を予定しているものがございます。1つは昨年本審議会に諮らせていただきました川西市の場外用地、通称「なげきの丘」に係るものでございます。本件につきましては、本年度内の処分に向けて手続を現在進めているところでございます。
また、もう一つは、豊中市野田地区にございます移転補償跡地約9,000平方メートルの土地でございます。
本件につきましては、買い受けを希望されている学校法人と現在処分に向けて調整を進めさせておりまして、調整が完了次第、改めて本審議会に諮らせていただき、処分をしたいというように考えております。
以上の2件につきましては、早期の処分が見込めるために、今回の統合の際の出資対象財産とは考えておりません。 

念のため書いておくと、ここの「学校法人」は、いわゆる「別法人」である。

つまり、 問題の土地は、80万平米ある移転補償地の中で、たった2件だけ出資対象財産とならなかった土地のうちの1つである。

出資対象外のものを出資対象として登記してしまった。これは典型的な「錯誤」であり、何も不審な点は見当たらない。

もうひとつの土地、「なげきの丘」は、「本年度内の処分」とあるが、実際には

第120回(平成25年5月28日)開催結果PDFファイル(PDF形式:2.3MB)

にある通り、平成24(2012)年2月23日に1億5000万円で売買契約を締結したとのことである(P28~。PDFが画像なので引用せず)。こちらは既に国有地ではなくなっていたので、錯誤の起こりようがなかっただろう。

 

ところで、こちらの時系列表では、

【2/27更新】森友学園(大阪市淀川区)と大阪・豊中の国有地 情報集約 | よどきかく

2012年7月1日 国有地を関空会社へ現物出資 登記情報
2012年夏 「希望額が安い(5.8億円)」として、学校法人からの購入を断る 朝日新聞2/11記事

 

 となっており、2012年7月1日以降に交渉が不調となったように読めるが、出典の朝日新聞2/11記事を読んでも具体的な「夏」の期日はわからなかった。

したがって、2012年7月1日以前に交渉は終わっており、改めて出資対象として組み入れることができた可能性はある。

しかしながら、当初出資対象と考えていなかったものを、登記の処理が目前に迫った時期に追加で組み入れることは、手続きにかかる時間を考えると難しいのではないか。

交渉終了が2012年7月1日以降であれば、出資できる期日は法律により2012年7月1日のみなのであるから、なにか法改正がない限り、出資せずに国側で処理するほかないだろう。

 

「錯誤」の登記に不審なものを感じる人は、このあたりの事実関係は抑えた上でなお怪しむべき事実の存在を提示していただきたい。

 

(3/26追記)

その後、3/22参議院総務委員会で民進党江崎孝議員がこのあたりの経緯を質問している。

それによると、大阪音大との交渉が終了したのは7月25日であったということである。

登記にかかる事実経過が当記事で示した通り大阪航空局職員の単純な錯誤であったことも答弁されている。

本件については完全にケリがついたと言っていいだろう。

森友学園問題の空騒ぎに思う

前回の記事の内容はまったく的はずれであったが、この件は法律面の勉強になることもあって、ずっと追いかけている。

 

現時点での私見を大雑把に述べると、土地取引に関し、政治家の関与を含む何らかの不正があるとは思われない。

糾弾する側が示すのは、状況証拠と呼ぶにも至らぬものばかりで、これらをもって「真っ黒」「大疑獄」などと称するのは、あやしい、うさんくさい人間は悪事を働くものだという単なる偏見である。

現職の総理大臣が関わる疑惑という点から、「ロッキード事件級」という評価を与えている向きもあるが、むしろ「ロッキード裁判批判級」のバカバカしい政権批判が行われているように思う。

ただし今回は、立花隆に相当するような論駁者はおそらく現れないであろう。

 

発端はわかる。

国有地の売却価格を非開示とすることができるという事は驚くべきことで、そこに何らかの不正のにおいを嗅ぎ取るのは自然である。

朝日新聞は番犬(ウォッチドッグ)としての機能を果たしたと言ってよい。

だがその後がいけない。事実を並べることはできても、事実を積み上げることができていない。読者に印象を植え付けることはできても、説得はできていない。

朝日に限らず、ネットを含めてメディアはどこも似たり寄ったりである。(テレビは見ていないが)

 

よりひどいのが国会での議論である。維新の面々の質問がまともな方なのだから何をか言わんや、民進党、特に玉木雄一郎は最悪である。攻めていれば優勢であると思っているのか、あるいはニュース映像を見た有権者がそのように思うと見くびっているのか、どちらにせよろくなものではない。

共産党は独自の情報網のおかげだろう、目新しい情報は出してくるのだが、それゆえにセンセーショナリズムに陥っている感がある。中身が伴っていない。「凍りついた」議場も拍子抜けしたのではないか。

 

そんな中、本件に関連して個人的に収穫と思えるのが、森村廣という人間を知ったことである。

民進党公認内定候補であり、一般的には

このツイートで広く知られていると思う。この謝罪をめぐるその後のやりとりも筋が通っていてよい。

そしておかしな主張には釘を刺す。

 付和雷同しない。

良いものは認める。

こんな人物になら個人献金してもいいかな、と思う。

1億3400万円=売買代金か?

学校法人に大阪の国有地売却 価格非公表、近隣の1割か:朝日新聞デジタル

大スキャンダルに発展するかもしれないこの問題について調べたら面白かったのでメモ。

ポイントとなるのはここだろう。

朝日新聞が登記簿などを調べると、森友学園側に契約違反があった場合、国が「1億3400万円」で買い戻す特約がついていた。公益財団法人の不動産流通推進センターによると、買い戻し特約の代金は売却額と同じ額におおむねなるという。森友学園の籠池泰典理事長も売却額が買い戻し特約と同額と認めた。

 

まことの主張! - 詳細表示 - ほぼ週刊 まこと通信 - Yahoo!ブログ

こちらで参照できる契約書によると、売買代金は「即納金」と「10年の年賦払いによる延納代金」の合計である。

 

ところでたまたま見つけた↓の文書によると、

普通財産にかかる用途指定の処理要領について

3 買戻しの登記及びその抹消
(1) 買戻しの特約の登記は、不動産登記法(平成16年法律第123号)第116条の規定に基づき、嘱託して行なうものとし、同法第96条及び不動産登記規則(平成17年法務省令第18号)第3条第9号に規定する手続によるものとする。なお、延納売払財産については、嘱託書様式中の売買代金欄には既納金の額を記載するものとし、延納代金は支払いのあるつど、当該金額の変更登記を行なう必要はない。 

 売買代金欄に記載されるのは「既納金の額」であるから、年賦で支払う延納代金の総額は含まれていないのではないだろうか。

 

即納金と延納代金のバランスや、年賦の各年の支払額は契約書の黒塗りにより不明だが、仮に各年でおおよそ均等払いだった場合、既納金が相場の1/10であるのはごく自然なことのように思われる。

 

また、「理事長も…認めた」とあるが、これは口頭なのか文書なのか。

どちらであれ、具体的にどういった文言の質問/回答であったのか。

 

以下続くかも

# 蛇足だが、実際に不当に安い価格で売却された可能性を否定する意図ではない。

firefoxのパスワードマネージャが働かなくなったのを解決した話

1110822 – Passwords are not saved nore offered anymore since ff 34.0.5

現象は上記で報告されている通りで、firefoxを最新バージョン(34.0.5)に更新して以来、既存のパスワードが自動入力されず、新たにパスワードを記録するか尋ねてくることもなくなってしまった。

「オプション→セキュリティ:保存されているパスワード」からは、保存されている値が確認できるのにも関わらずである。

 

↑に書いてあったようにプロファイルをリセットしたら直ったのだが、調査意欲がわいたので、プロファイルの中のそれっぽいファイルを古いプロファイルからひとつずつコピーして起動、チェックを繰り返したところ、prefs.jsが問題を引き起こしているファイルであると特定できた。

 

これはfirefoxの設定を保存しているファイルなので、設定値がずらずらと並んでいる。

それらを二分探索してみたところ、なんとも奇妙なことに、

user_pref("browser.startup.homepage", "about:home");

 という行があるとパスワードマネージャが動作しなくなることがわかった。

これは設定値にかかわらずダメであった(""もダメ)。

この行を手動で*1消したところ、見事にパスワードマネージャの機能が復活した。

 

また、さらに不思議なことに、一度直った後で再び"browser.startup.homepage"の値を設定する行ができても、不具合が再発しなかった。

 

さらに調査を進めれば、いろいろな興味深いこと、あるいは他にある真の原因がわかるのかもしれないが、とりあえず不具合は解消できたことに満足し、ここまでとした。

 

*1:

その後いろいろいじってみたところ、上記の行は手動で消さなくても

「オプション→一般:初期設定に戻す」→firefox終了

→起動→「オプション→OK」→firefox終了

→起動

という操作手順で消えてくれた。

「米国のシリア空爆」報道についてのメモ

朝日新聞はまだ懲りないのか!? 「米国のシリア空爆」でも「ねじ曲げ」報道 | 長谷川幸洋「ニュースの深層」 | 現代ビジネス [講談社]

に関連して

ワシントン・ポスト

In Syria, Obama stretches legal and policy constraints he created for counterterrorism - The Washington Post

In an NBC interview Tuesday, Antony Blinken, deputy national security adviser, said the Syria strikes were justified under “a doctrine of collective self-defense,” because Iraq had asked “the United States and other countries to act against ISIL because ISIL in Syria threatens them.” ISIL is another acronym for the Islamic State. Samantha Power, the U.S. ambassador to the United Nations, offered the same justification in a letter to U.N. Secretary General Ban Ki-moon. 

 ニューヨーク・タイムズ

http://www.nytimes.com/2014/09/24/us/politics/us-invokes-defense-of-iraq-in-saying-strikes-on-syria-are-legal.html

 Two legal scholars, Jack Goldsmith of Harvard Law School and Ryan Goodman of the New York University School of Law, said the United States appeared to be on solid ground by invoking the argument of collective self-defense of Iraq, but that the notion that Syria’s sovereignty could legally be violated because it was “unable or unwilling” to suppress the threat would be more controversial. While the United States has long invoked that argument in various contexts, many international law scholars disagree with it, they said.

The United States is also asserting a right to defend its own personnel in Iraq from the Islamic State. American officials said this right, which was not asserted in the letter to Mr. Ban, should be understood as supplementary authority to helping Iraq defend itself directly.

ガーディアン

Britain and the bombing of Isis: eight questions raised by the vote for war | Politics | The Observer

The Obama administration is justifying its Syrian air strikes as acts of collective self-defence. Its ally, Iraq, is under attack from Isis strongholds in Syria, so Iraq and its supporters have the right to strike those strongholds. 

サマンサ・パワーの弁

'This Week' Transcript: Ambassador Samantha Power - ABC News

 So they have made an appeal to the international community for collective defense. And we think we have a legal basis we need if the president decides...

 

 もっと集めたい

 

OECDの解雇規制の数値

日本の正社員をクビにするのは世界で一番難しいと主張する人が見る幻覚: ニュースの社会科学的な裏側

はてなブックマーク - 日本の正社員をクビにするのは世界で一番難しいと主張する人が見る幻覚: ニュースの社会科学的な裏側

の内容に関して。

 

俺が見てたのは

http://www.oecd.org/els/emp/Updated%20time%20series.xls

で、uncorrelatedさんや(たぶん)ignioさんが見てたのは

http://www.oecd.org/els/emp/EPL-timeseries.xlsx

の資料。

比べてみると、なんと肝心の2008年の数値が異なっているではないか。

(なぜ「肝心」かというと、大元の記事で根本氏が挙げているのが2008年のデータだから。)

REG8の値が、前者では6、後者では2となっている。

これでは議論も混乱するはずだ。

どちらが正しいのだろう?

俺の判断では前者が正しい。

少なくとも最初にデータが出された時点では、2008年の日本のREG8の値は6だったと思われる。

根拠はまず

http://anond.hatelabo.jp/20131222145818

REGULAR3_v3の構成要素の内で日本の数値を引っ張りあげてる要素は2つ。

REG8 Possibility of reinstatement following unfair dismissal(不当解雇から復職の可能性)

REG9 Maximum time to make a claim of unfair dismissal(不当解雇へのクレーム申し立ての最大猶予期間)

REG8が2だとしたら、「数値を引っ張り上げる」ことにはならない。

もう一つは

http://benli.cocolog-nifty.com/la_causette/2010/01/post-abc5.html

REGULAR3_v1の値が示されており、日本は3.25となっている。

REGULAR3_v1 = (REG5 + REG6 + REG7 + REG8) / 4

であるから、

3.25 = (2 + 4 + 1 + REG8) / 4

13 = 7 + REG8

REG8 = 6

となる。

 

すなわち2008年の数値については前者のデータが正しいので、「OECDで世界一」というのは、「幻覚」とは言えまい。

ただしそれをどう評価するかはまた別である。

その点については

http://anond.hatelabo.jp/20131219213550

に書いた。なんとなく匿名ダイアリーに書いたが、俺の記事である。

 

ちなみに、城繁幸の議論のような「解雇の難しさ」という言葉の印象に頼ったフレームアップが無意味な理由は、

http://www.jil.go.jp/foreign/labor_system/2013_11/oecd_01.htm

の(10)でわかりやすく解説されている。

また、REG9の値が高いことからくる表面上の「解雇の難しさ」がほぼ無意味であることも、(7)で示されている。

本件に興味を持たれた方には一読をおすすめする。