森友学園問題:迫田氏を証人喚問して何を聞くのか

佐川宣寿国税庁長官に対する証人喚問が、これといった成果なく終わったことから、さらなる証人喚問を要求する声が高まっている。

特に迫田英典元理財局長に関しては、佐川氏が、自身が理財局長に就任するにあたり、森友学園に関して迫田氏からの引き継ぎは無かったと証言したことから、その注目度が高まったように思える。

しかし私は、迫田氏を喚問しても今回同様の無益な喚問にしかならないと(現状では)思うので、この記事ではそのことについて記す。

 

森友学園問題に関して迫田氏が疑惑の目を向けられる理由は、大きく分けて2つある。一点目は迫田氏が、森友学園に対し国有地の売却がなされた時点での、財務省理財局長であったということである。理財局長は国有地の売却を所管する部局の長であるから、その立場を利用して、例えば値引きをするように指示をしたのではないか、といったようなことが言われている。

あまり顧みられることがないが、迫田氏はちょうど約1年前の2017年3月24日に参議院予算委員会参考人として招致され、己と森友学園の案件との関わりについて「丁寧な説明」を行っている。

参議院会議録情報 第193回国会 予算委員会 第16号

西田昌司 (略) あの土地の売却について特段政治的な配慮も、皆さん方がいわゆるそんたくをしたということもなかったと思いますが、その辺の事実関係についてお一人ずつお答えください。
参考人(迫田英典君) お答えを申し上げます。
 この事案につきまして私が政治的な配慮をしたのかというふうな御質問と受け止めまして、申し上げたいと思いますけれども、まず、理財局長当時、私は本件について報告等を受けたことはございません。少しここは丁寧に御説明をさせていただきたいと思います。
 個別の普通財産の管理処分、これにつきましては、国有財産法並びに普通財産取扱規則に基づきまして財務局長に分掌をされております、事務が分担をされているということでございます。
 一方で、一般的にこうした個別財産の処分に関する法令解釈、こういったものにつきましては、各財務局から本省の理財局の担当課室に報告なり相談がなされるということでございまして、本件につきましても、法令等に反しないかといったような観点から本省理財局は相談を受けていたというふうに承知をいたしております。
 全国の財務局で売払い等の処分がなされる国有地でございますけれども、これは年間四千件を超えているわけでございまして、全ての事案が本省理財局に報告、相談されるわけではございません。
 また、本省理財局に上がってくる案件のうちでいわゆる理財局長まで報告、相談がなされる案件は、私の一年間を振り返っても極めて限定的でございます。それは、私どもに、私のところに上がってこない案件につきましては、それぞれの担当部署が責任を持って対応するということになるわけでございまして、要するに、御質問に戻りまして、本件について私が政治的な配慮をしたのかということに戻りますと、今言ったような事情でございますので、政治的な配慮をするべくもなかったということでございます。
 あわせまして、本件に関しまして、私に対して国会議員の方を始めとした政治家の方あるいはその秘書の方等からの問合せ等は一切ございません。
 以上でございます。 

私はこの説明は、国有地の処分の事務の分担の一般論としては完璧だと思うし、その一般論を打破することのできる、個別的ななにがしかの証拠・事実に類するものは一切出てきていないと思う。

先日太田理財局長が、一連の決裁文書の最終的な決裁権者が誰だったのかを問われて、それは近畿財務局の管財部次長であると答えたとおり、国有地の貸付から売却に至るまで、事務的には近畿財務局の中で完結しているのである。

唯一、土地の貸し付けに関する特例承認を財務本省に求めた件だけが、財務省理財局が決裁に関与した件であるが、その時点(2015年4月30日)では迫田氏はまだ理財局長に就任していない。迫田氏の理財局長就任は2015年7月になってからである。しかも同決裁は理財局次長が最終決裁権者となっており、理財局長まで決裁があがっていくような案件ではない。

 

迫田氏のこの説明を完璧だと思ったのは私のみならず、野党議員の面々も同様だったはずだ。というのも、前掲の迫田氏の答弁は、会議の冒頭で自民党西田昌司議員から発せられた質問に対するものであったが、野党議員はこの説明を聞かされて以後、迫田氏に対してぐうの音も出なかったからである。

この会議中、野党議員から迫田氏に対する質問は、わずかに大塚耕平議員が

大塚耕平 (略)
 今日は国税庁長官と国際局長においでいただいています。まず、国税庁長官にお伺いいたしますが、このお手元の経緯表にもありますように、総理の御夫人が森友学園で講演をされた平成二十七年の九月五日の直前に、理財局長、当時の理財局長として迫田さんは総理と面会をしておられますが、報道によっては三日と書いてあったり、一部の報道では四日と書いてあったり、三日と四日両方というのもあって我々もよく分からないんですが、事実関係を、これ通告してありますので御確認いただいたと思いますので、正確に、その直前の九月の三日又は四日、あるいはその両日、総理とどういう御用件でお会いになったのかという事実関係をお答えください。
参考人(迫田英典君) お答えをいたします。
 一昨年の九月に私は総理のところに御報告に参っております。日付は九月の三日であります。その理由は後ほど申し上げます。案件は、日本郵政グループ三社の株式の上場でございます。
 一昨年の秋、この日本郵政グループ三社の株式の上場というのは理財局の大変大きなイシューでございました。したがいまして、それ以前にも総理のところには御報告に行っていたと思いますけれども、このタイミングで改めまして検討状況の御説明、それから足下の株式市場あるいは経済情勢等の状況というものを踏まえまして、九月の十日に売却手続の開始、委員よく御案内のとおり、ローンチと申しますけれども、これをするというふうなことを口頭で御説明をしたわけであります。
 九月の三日という意味合いは、当初、私の記憶、やや曖昧なところありましたけれども、今申し上げたように、ローンチ日が九月の十日でございまして、その一週間前ということでございました。
 それで、九月の上旬というのは、これも委員も御記憶のとおりと思いますけれども、あの年、八月のお盆前までは株式市場は比較的堅調でございました。お盆明けになりまして、マーケットではチャイナ・ショックというような言い方をしておりましたけれども、非常に値崩れをしたわけでございますから、それ以前にも御説明をしておりましたけれども、ローンチの一週間前というタイミングで改めてやらせていただきたいということを御報告に上がったということでございます。

と、迫田氏に疑惑の目が向けられるもう一つの理由である「疑惑の3日間」と呼ばれる期間の、安倍総理と迫田氏の面会内容を問い、きっぱり説明されてしまったのと、

大塚耕平 その直前、九月三日の直前の八月二十六日に森友小学校の建設予定地で埋蔵物が発見されて、二十七日に近畿財務局と大阪航空局で現地調査をしているわけですが、この事実関係は、当時の理財局長ないしは当時の近畿財務局長として間違いないですか。
参考人(迫田英典君) お答えをいたします。
 今日の午前の西田委員の御質問に対してお答えをいたしましたけれども、私は、理財局長に在任時代、その森友学園の件については報告等を受けておりませんので、その間の事情については承知をしておりません。

大塚耕平 (略)当時の理財局長、まあ全部の案件を知っている必要はないかもしれませんが、何か自分の管理に落ち度なり瑕疵があったとは思われませんか。
参考人(迫田英典君) お答えをいたします。
 こうした個別の普通財産の管理処分は、先ほど申し上げたような法律、規則等で適切に分掌されておりまして、その範囲において権限者が適切に対応したものと思っております。

と、2件質問するも、軽くいなされたのみであった。あれだけ野党揃って呼べ呼べと言っておいて、これだけ、たったこれだけなのである。

 

特筆すべきは森友問題の追求で名を上げた感のある、共産党の辰巳孝太郎議員である。辰巳議員はそれまでの国会で

平成29年03月06日 参議院会議録情報 第193回国会 予算委員会 第7号

○辰巳孝太郎君 (略)
 真相解明のためには、籠池氏本人や当時の責任者の迫田理財局長、これの国会招致を強く求めたいと思います。

平成29年03月10日 参議院会議録情報 第193回国会 予算委員会 第10号

○辰巳孝太郎君 偽証罪にも問われる、籠池氏、迫田氏の証人喚問を強く求めて、私の質問を終わります。

平成29年03月21日 参議院会議録情報 第193回国会 財政金融委員会 第4号

○辰巳孝太郎君 (略)真相究明のためには、当時の財務局、理財局、責任者である迫田前理財局の局長を参考人としてこの委員会でも招致願いたいと思います。委員長、お計らいください。

と繰り返し迫田氏の招致を要求しており、実際に参考人招致があった当日の質問でも

○辰巳孝太郎君 (略)
 さて、今日は、迫田前理財局長、武内前近畿財務局長、よくぞお越しいただきました。できればですね、できれば証人喚問でお越しいただきたかったというふうに思いますが、(略)

と先制ジャブを繰り出した。

当時ネットで中継を見ていた私は、これは何か面白いやり取りが見れるかと期待したものだった。しかし辰巳議員は結局、迫田氏に対しては何一つ質問しなかったのである。

 

そもそも事務の分担の話などは、ちょっと事前調査をすれば分かる話なのではないか。そのような事情を踏まえてなお疑うべきところや直接確認したいことがあるから、国会招致を求めたのではなかったのか。

国会に呼べ呼べと言っておいて実際に呼んだらろくに質問もせず、1年経ってまた呼べという。迫田氏が潔白だったとしたら、これはどれだけ無礼なことだろうか。

野党が迫田氏の証人喚問を求めるのであれば、少なくとも迫田氏の「丁寧な説明」に対するまともな反論を示し、証人喚問の必要性を説明するのが筋というものである。

それができていない状態では、仮に証人喚問が実施されたとしても、昨年の参考人招致時と全く同じ展開になることを予想せざるを得ない。