森友学園問題:方便としての「新たなゴミ」

いわゆる「新たなゴミ」が実際にあったのか、というのは、森友学園問題における大きな論点である。

私はこれまでは、どちらかと言えば新たなゴミは「あった」 と考えていた。

ただし、大阪航空局が算定に利用した、敷地全体で3.8m、杭打ち部分9.9mという深度は、瑕疵担保責任の免除という重大な(国側の)利益との引き換えとするための名分の意味合いが強いとは思ってはいた。その上で、それなりの量の新たなゴミが発見されてはいたのだろうと思っていた。

その判断の理由は、仮に新たなゴミが存在しなかったとした場合、それをあったことにする理由が見当たらないからである。私は、いわゆる「既知のゴミ」だけでも、全て処理すれば「地価を上回る」撤去費用になるおそれがある(と国側は考えていた)という認識なので、何も捏造だの何だのという危ない橋をわたる必要はなく、既知のゴミの撤去費用として値引けばそれで良いはず、という理屈である。

 それが今現在は、新たなゴミは「なかった」論に傾きつつある。その理由はもちろん、「新たなごみがあったことにする理由」が見つかったためである。

 

文書改ざん問題が発覚して以降忘れ去られてしまった感があるが、近畿財務局と本省との間で交わされた法律相談の内容が、今年に入って資料として公開された。

財務省が公表した森友学園側との交渉内容が含まれる文書:朝日新聞デジタル

「新たなゴミ」に関連するのは、ファイル

廃棄物混在土壌の残存について

である。

この法律相談は3月24日に照会、3月31日に回答が出ているものである。すなわち、森友学園代理人たる酒井弁護士から、ゴミの処理費用を評価額に反映した上での土地の買い受けで事態の収集を図りたいとの提案を受けてのものである。

その中には例えば「一旦、学校法人に撤去させて改めて有益費で支払う処理方法を含めて検討している状況」といった記述もあり、この時点で近畿財務局・大阪航空局の考えは「値引きありき」ではなく「処理ありき」の段階にとどまっていることが伺い知れる。

更にその後の3月30日と見られる音声データにおいても、

東京新聞:「森友」協議 音声データ詳報:社会(TOKYO Web)

 弁護士 「先ほど言ったように、土地の価格から処分費用を引いてもらえる話として、土地の評価ができるんだったら。そしたら、その時点で売買代金を処理するし、引けないと言うなら後で請求するしかない」

 国側の職員 「金額をまず提示して、それでどうかというところになる。それで合意に至らなければ当然、国が請求を受けるという話になると思う」

(中略)

 弁護士 「そういう値段と、そこから処理費用を引けるような形で話をもっていってもらうように。仮に引けなかったとしても、後で請求できるような形にしてもらいたいし、土地の値段もできるだけ低くということでお願いする」

というやり取りがあり、値引きで対応することが確定していない事がわかる。

8億円の値引きが、総理/官邸の指示により端から決まっていたかのような言説が散見されるが、そのような言説とは符合しない事実である。

 

さて、同法律相談文書の中でひときわ重要なのが、以下に画像で引用したフローチャート図であると思われる。

f:id:barelo:20180320164615p:plain

 ※契約書5条、6条の内容は記事末尾に別途引用

これは近畿財務局からの

(問1)国は本地を小学校敷地として学校法人に貸付けており、貸主として小学校が建築できる敷地を提供しなければならないため、校舎建築予定箇所に存在する廃棄物混在土壌を撤去する必要があると考えるが、その考え方で良いか。法的にどういう責任を負担することになるのか。

という質問に対して示されたものである。

この流れに従うと、「廃棄物混合土壌が本件報告書(契約書5条)記載の地下埋設物等と同一視できる場合」「契約書6条の処理に従う」ということで終わってしまう。契約書6条の処理というのは、すなわち有益費で処理するということである。

そうなってしまうと、基本的にはかかった費用の事後的な実費精算となるから、国としては地下埋設物の撤去費用をコントロールできなくなってしまう。従って、撤去費用が地価を上回る想定を排除できないことになる。

国側が、撤去費用が地価を上回る可能性を実際に心配していた証左は、同法律相談の中にも見て取れる。

(問3)地下埋設物撤去に必要な費用が、土地の時価額を上回るような場合にまで貸主が費用負担を行って撤去工事を行う必要があるか。費用が土地の時価額を上回る水準に至れば貸主の義務は緩和されるか。

 

【回答】

(略)

 そもそも土地売買に関する瑕疵担保による損害賠償額の算定の際には、信頼利益の限度で賠償責任を負い、その賠償額は目的物の時価額に限定されるとの議論はある。

 しかし本件においては、地下埋設物の存在によって本件報告書等記載の使用目的を達成できない重要な瑕疵について、契約解除、損害賠償責任を免れるために自ら除去工事を行う場合には、契約の使用目的を達成でき、国が算定した貸付額に見合う品質の土地に達する程度の除去工事を行わない場合には、瑕疵担保責任による契約解除、損害賠償責任を免れないという問題であり、上記損害賠償責任の問題とは一線を画し、必ずしも工事額と目的物の時価額の大小を対比するものではない。

 

法律相談の結果がこういうものだったことから、近畿財務局が

・有益費で処理しなくても良い=値引きで対応できる

・撤去費用が地価を上回らないことを保証できる

という条件を満たすためにたどり着いた結論が「新たなゴミ」スキームだったのではないか。

すなわち、

・「撤去が必要なのは専ら事前に知りえない地下埋設物=新たなゴミである」ということにする

・その撤去費用を大阪航空局に算定させ、森友学園と合意可能かつ総合的な国の収支がマイナスにならない売却額を導き出す

というものである。

 

 

参考資料

(土壌汚染及び地下埋設物)

第5条 乙は、平成26年11月7日及び平成26年12月17日に甲が引き渡した「大阪国際空港豊中市場外用地(野田地区)土地履歴等調査報告書 平成21年8月」、「平成21年度大阪国際空港豊中市場外用地(野田地区)地下構造物状況調査業務報告書(OA301)平成21年1月」、「大阪国際空港場外用地(OA301)土壌汚染概況調査業務報告書 平成23年11月」、「平成23年大阪国際空港場外用地(OA301)土壌汚染深度方向調査業務報告書 平成24年2月」(以下「本件報告書等」という。)に記載の地下埋設物の存在及び土壌汚染の存在等を了承するものとする。

2 乙は、前項の内容に加えて、貸付財産のうち一部471.875m2が、豊中市より土壌汚染対策法第11条第1項で定める形質変更時要届出区域に指定されていることを了承するものとする。

3 乙は、前2甲を了承した上で本契約を締結するものとし、本件報告書等に記載のある汚染物質、地下埋設物等の存在及び形質変更時要届出区域の指定を理由として、瑕疵担保責任に基づく本契約解除及び損賠賠償請求並びに貸付料の減免請求等を行わないことを、甲に対して約する。

(土壌汚染除去等費用)

第6条 乙が、前条第1項記載の土壌汚染、地下埋設物の除去を行い、それによって貸付財産の価値が増大した場合の除去費用は有益費とする。

2 前項の有益費は、本契約終了の時に、貸付財産価格の増加が現存する場合に限り、乙が支出した費用のうち甲の基準による検証を踏まえて乙と合意した額又は貸付財産価格の増加額のいずれかを甲が選択の上うえ、乙に対して返還する。

3 甲は、前項の規定にかかわらず、甲が返還すべき有益費の金額査定につき、本契約終了前においても、貸付財産価格増加の現存額算定の基準時期を指定したうえで、前項と同様の方法により甲が乙に返還すべき有益費の額を定めることができる。但し、同金員の返還時期及び返還方法は、甲が指定し、同金員に対しては、返還時期までの利息及び遅延損害金は付さないこととする。

4 前2項における貸付財産価格の増加時は、甲の基準による鑑定評価方法によって定めることの甲は同意する。

5 第2項の返還時期につき、相当の期限を付する必要が生じた場合には、甲及び乙が協議した上で、相当な期限を付した返還時期を定めることができる。

6 第1項の有益費に関して、甲は、乙に対し、乙が、現に行い又は行おうとする土壌汚染又は地下埋設物除去工事に関する一切の資料の提出を求め、その他必要な調査を行うことができる。