続・反社会的勢力の定義について
前記事では金融庁のパブコメや過去の国会答弁等を引用して、反社会的勢力についての政府の考え方が従来の考え方を踏襲したものであることを示した。
その後、ネットで資料を漁っていたらもっと良い資料があったので紹介する。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/hanzai/pc/070427bessi1.pdf
これは犯罪対策閣僚会議、すなわち件の指針を策定した主体が募集したパブコメへの回答である。
まずはこのやり取り。
○ 反社会的勢力の示す範囲が悪意を持って拡大され、労働組合や被害者団体もしくは社会的な利害対立関係にある団体(例えば環境保護団体等)の正当な権利を侵害しないよう、さらに明確化されることを望みます。
○ 近年顕著化している新興宗教や特定思想団体等の思想信条の自由を悪意的に濫用しているものに対する対策について不十分な内容であると見受けられるので、安易ではないこの問題に対する指針を盛り込まれる事を強く望みます。
との御意見を頂きました。
<考え方>
本指針には、【暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人である「反社会的勢力」をとらえるに際しては、暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団といった属性要件に着目するとともに、暴力的な要求行為、法的責任を超えた不当な要求といった行為要件にも着目することが重要である。】と記載しています。
反社会的勢力のとらえ方について、悪意を持って拡大解釈し、正当な権利を侵害してはならないということは、正に御意見のとおりであり、労働組合や被害者団体等は反社会的勢力には該当しないものであります。ただし、例えば、暴力団が労働組合等の活動を仮装して、暴力的な要求行為をしている場合には、当然、当該暴力団は、反社会的勢力であります。
また、例えば、暴力団が、宗教団体等の活動を標ぼうしながら、暴力的な要求行為等をしている場合には、当然、当該暴力団は反社会的勢力でありますし、また、暴力団ではなくても、ただ単に思想の自由等を悪意的に濫用しているものについて、暴力的要求行為といった行為要件に着目することにより、反社会的勢力ととらえる事は可能であると考えます。
「労働組合や被害者団体等は反社会的勢力には該当しない」という表現で、範囲がやや明確化されているが、いささか肩透かしな内容である。「記載しています」で終わっているあたりは、「定義」という言葉を意図的に避けている感もある。
次にこちらのやり取り(抜粋になる)。
(略)
○ データベースに情報を提供するにあたっては、反社会的勢力の情報に関する定義・範囲を明確にする必要があるとともに、警察による情報精査が必要である。
(略)
との御意見を頂きました。
<考え方>
(略)
反社会的勢力の定義や範囲についてでありますが、警察庁の組織犯罪対策要綱(警察庁ホームページに掲載)において「暴力団 「暴力団関係企業」「総会屋」「社会運動標ぼうゴロ」等の属性要件は、既に定義付けされており、これらは各企業に共通するものと考えます。
他方、「暴力的な要求行為」等の行為要件については、業種によって、その具体的な行為態様が異なるものと考えますので、業界の実態に応じて、更に具体化した定義等を策定していただくのが適切であると思います。
例えば、銀行業界で言えば、
○ 当行との取引(口座開設、融資、返済等)に関して、脅迫的な言動をし、又は暴力を用いたとき
○ 風説を流布し、偽計を用い又は威力を用いて当行の信用を毀損し、又は当行の業務を妨害したとき
○ その他これらに類する止むを得ない事由があったとき
等の具体化が考えられます。
今度は「定義」という言葉が現れた。これによれば、ポイントは「属性要件」「行為要件」である。野党や各報道機関が「定義した」とする「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」ではない。
前記事の結びで書いた通り、組織犯罪対策要綱(リンクは指針公表当時のものではなく最新版)で定義付けのある属性要件は業種を問わず反社会的勢力に該当する。
一方で行為要件の方は、暴力的や威圧的といった抽象的な行為様態ではなく、「口座開設」であるとか「当行の」といった、業種に結びついた個別具体的な内容を想定しているようだ。
もとより当該指針は全企業=全業種を対象にしたものであるから、反社会的勢力の定義の一部である行為要件がそのようなものであれば、定義全体としては「限定的・統一的」なものにならないのは自然である。
ただし、その指針が各省庁に下りた段階で、本来は行為要件の具体化=定義の明確化を行うつもりだったのではないかという疑問は残る。「反社会的勢力はその形態が多様であり、また社会情勢に応じて変化し得る」という説明は、省庁レベルでの具体化が困難だったことを糊塗する後づけ(ただし先日の答弁書においてではなく、2008年頃の時点で)の方便のようでもある。と、ここは裏付けのないただの感想。
もうひとつ蛇足を付け加えると、前回「十分条件の一つ」と書いて評判の悪かった(実際間違っているのかどうかは結構気になっている)「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」を何だと捉えるべきか。改めて案ずるに、「主要な類型」ではどうだろうか。そこから外れるものもあるから定義ではない。でもザックリ言うとそんな感じ、という類のもの。
反社会的勢力の定義について
端的に言って、今回の答弁書は従来の方針を踏襲した内容である。
2007年に政府としての指針である「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」が発表され、それを受けて金融庁は2008年に監督指針の改正を行った。
その際にパブリックコメントが募集されており、その結果は以下で確認することができる。
https://www.fsa.go.jp/news/19/20080326-3/15a.pdf
その中に、そのものズバリのやり取りがある。(P7 #23)
送られたコメントはこうだ。
反社会的勢力のとらえ方として、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」の記載が参考として明記されているが、反社会的勢力との関係遮断の実効性確保のためには、反社会的勢力に関して具体的な定義等を策定する必要がある。特に行為要件について、より具体化した定義等を策定することが必要であると考える。
それに対する回答が
反社会的勢力はその形態が多様であり、社会情勢等に応じて変化し得ることから、あらかじめ限定的に定義することは性質上そぐわないと考えます。本項の「反社会的勢力のとらえ方」を参考に、各金融機関で実態を踏まえて判断する必要があると考えます。
となっている。
#24も見てみよう。コメントは
「・・・詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団」とあるが、粉飾、脱税、談合等、単なる経済犯罪事案のみでは反社会的勢力と規定する必要はないとの理解でよいか確認したい。同様に「暴力的な要求行為」や「法的な責任を超えた不当な要求」を行う者について、当該行為をもって一律に反社会的勢力とするのではなく、内容を踏まえ、「反社会的勢力に該当するか否か」を銀行として判断することでよいか確認したい。また、「社会的運動標榜ゴロ、政治活動標榜ゴロ、特殊知能暴力集団」の具体的な定義・具体例を明示していただきたい。
対する回答は
反社会的勢力をとらえるにあたっては、属性要件のみならず行為要件も考慮し、総合的に判断することが適当であると考えます。したがって、ご指摘の経済犯罪者や「暴力的な要求行為」、「法的な責任を超えた不当な要求」を行う者が直ちに反社会的勢力となるわけではありませんが、当該事由が反社会的勢力を判断する1つの要素にはなり得るとは考えます。社会運動標榜ゴロ等の定義・具体例は、平成16年10月25日付警察庁次長通達「組織犯罪対策要綱」を参照ください
「総合的に判断することが適当」である。この 「総合的に判断」というキーワードは当該資料で度々使われているが、その含意は社会人なら理解できるであろう。厳密な定義に照らした判断は不能(あるいは不要)なのである。
かなりのぶん投げ指針のように思われるが、各金融機関はそれぞれに「実態を踏まえて判断」したようである。また別のパプコメからそのあたりの状況が窺われるので引用すると、
https://www.fsa.go.jp/news/25/20140604-1/01.pdf
いかなる属性・行為をもって反社会的勢力と認定するかは、明確に統一された基準がなく、各事業者の判断で対応されているのが現状ではないかと思われる。健全な経済活動に過度の負担や萎縮をもたらさないよう、事業内容に応じて排除すべき反社会的勢力の範囲が異なる可能性も考慮して、本ガイドラインにおいて明確な反社会的勢力の基準を示していただきたい。(略)
との要望があった。それに対する回答は
反社会的勢力はその形態が多様であり、社会情勢等に応じて変化し得るため、あらかじめ限定的に基準を設けることはその性質上妥当でないと考えます。本ガイドラインを参考に、各事業者において実態を踏まえて判断する必要があります。 (略)
と、けんもほろろである。
回答中の「反社会的勢力はその形態が多様であり、社会情勢等に応じて変化し得る」のくだりは、先に引用したパプコメでも、こちらのパプコメでも、そして今回閣議決定された答弁書や菅官房長官の会見でも繰り返されており、これが政府指針策定当初からの一貫した立場であったことがわかる。
補強証拠としていくつか引用を重ねる。
まずは2013年の国会会議録から。
○政府参考人(細溝清史君) 私どもは、金融機関における反社勢力との取引の有無や内容については、必要に応じて日常の検査監督において確認しております。ただ、反社会的勢力はその形態が多様でありまして、また社会情勢に応じて変化し得るということから、あらかじめ限定的、統一的に定義することは困難でありますので、各金融機関でそれぞれ実態を踏まえてそのデータベースを構築しております。
そして、
に関する第三者検証委員会の報告書から。
https://www.orico.co.jp/company/news/2013/pdf/20131227_1.pdf
そこで、翻って「反社会的勢力」とは何かを考えてみると、政府指針等によって、「反社会的勢力」の内容についてある程度の指針が示されているが、それもあくまで指針にとどまり、いまだ「反社会的勢力」とは何かを明確に定義付けた法令は存在しないし、公権的に「反社会的勢力」の認定を行う機関というのも存在しない。要するに、「反社会的勢力」とは言っても、その定義付けや該当性判断は、各企業の自主的判断に委ねられているというのが現状である。そのことは、本件において、オリコにおける「反社会的勢力」とみずほグループにおける「反社会的勢力」の内容が相当程度異なっていて、どちらか一方の定義に該当すれば、ただちに他方の定義にも該当するという関係にないことをみてもよく理解し得る。
さて、それなら2007年政府指針に記述され、「定義」であるとみなされている
暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人
は何なのだと思われた方もいらっしゃるだろう。案ずるに、これは定義ではなく十分条件の一つである。それだけでは反社会的勢力と認定することはできない。さもないと、クレーマーのような人物はまさにこの定義に当てはまり、反社会的勢力とみなされることになってしまう。
また、定義が明確でないことは反社会的勢力の認定が不能であることを意味しない。反社会的勢力のコアの部分である暴力団関係者は属性要件だけで十分に一発アウトである。問題は常に周縁部のグレーゾーンであり、そこに曖昧さを抱えている以上、正確を期するならば「限定的・統一的な定義は困難」と言わざるを得ないのである。
※引用した資料が最新でも5年以上前のものであり、現在までの間に事情が変わっているかもしれない。なにぶん数時間で調べて書いた記事なので、その点はご留意いただきたい。
森友学園問題:方便としての「新たなゴミ」
いわゆる「新たなゴミ」が実際にあったのか、というのは、森友学園問題における大きな論点である。
私はこれまでは、どちらかと言えば新たなゴミは「あった」 と考えていた。
ただし、大阪航空局が算定に利用した、敷地全体で3.8m、杭打ち部分9.9mという深度は、瑕疵担保責任の免除という重大な(国側の)利益との引き換えとするための名分の意味合いが強いとは思ってはいた。その上で、それなりの量の新たなゴミが発見されてはいたのだろうと思っていた。
その判断の理由は、仮に新たなゴミが存在しなかったとした場合、それをあったことにする理由が見当たらないからである。私は、いわゆる「既知のゴミ」だけでも、全て処理すれば「地価を上回る」撤去費用になるおそれがある(と国側は考えていた)という認識なので、何も捏造だの何だのという危ない橋をわたる必要はなく、既知のゴミの撤去費用として値引けばそれで良いはず、という理屈である。
それが今現在は、新たなゴミは「なかった」論に傾きつつある。その理由はもちろん、「新たなごみがあったことにする理由」が見つかったためである。
文書改ざん問題が発覚して以降忘れ去られてしまった感があるが、近畿財務局と本省との間で交わされた法律相談の内容が、今年に入って資料として公開された。
財務省が公表した森友学園側との交渉内容が含まれる文書:朝日新聞デジタル
「新たなゴミ」に関連するのは、ファイル
である。
この法律相談は3月24日に照会、3月31日に回答が出ているものである。すなわち、森友学園の代理人たる酒井弁護士から、ゴミの処理費用を評価額に反映した上での土地の買い受けで事態の収集を図りたいとの提案を受けてのものである。
その中には例えば「一旦、学校法人に撤去させて改めて有益費で支払う処理方法を含めて検討している状況」といった記述もあり、この時点で近畿財務局・大阪航空局の考えは「値引きありき」ではなく「処理ありき」の段階にとどまっていることが伺い知れる。
更にその後の3月30日と見られる音声データにおいても、
東京新聞:「森友」協議 音声データ詳報:社会(TOKYO Web)
弁護士 「先ほど言ったように、土地の価格から処分費用を引いてもらえる話として、土地の評価ができるんだったら。そしたら、その時点で売買代金を処理するし、引けないと言うなら後で請求するしかない」
国側の職員 「金額をまず提示して、それでどうかというところになる。それで合意に至らなければ当然、国が請求を受けるという話になると思う」
(中略)
弁護士 「そういう値段と、そこから処理費用を引けるような形で話をもっていってもらうように。仮に引けなかったとしても、後で請求できるような形にしてもらいたいし、土地の値段もできるだけ低くということでお願いする」
というやり取りがあり、値引きで対応することが確定していない事がわかる。
8億円の値引きが、総理/官邸の指示により端から決まっていたかのような言説が散見されるが、そのような言説とは符合しない事実である。
さて、同法律相談文書の中でひときわ重要なのが、以下に画像で引用したフローチャート図であると思われる。
※契約書5条、6条の内容は記事末尾に別途引用
これは近畿財務局からの
(問1)国は本地を小学校敷地として学校法人に貸付けており、貸主として小学校が建築できる敷地を提供しなければならないため、校舎建築予定箇所に存在する廃棄物混在土壌を撤去する必要があると考えるが、その考え方で良いか。法的にどういう責任を負担することになるのか。
という質問に対して示されたものである。
この流れに従うと、「廃棄物混合土壌が本件報告書(契約書5条)記載の地下埋設物等と同一視できる場合」「契約書6条の処理に従う」ということで終わってしまう。契約書6条の処理というのは、すなわち有益費で処理するということである。
そうなってしまうと、基本的にはかかった費用の事後的な実費精算となるから、国としては地下埋設物の撤去費用をコントロールできなくなってしまう。従って、撤去費用が地価を上回る想定を排除できないことになる。
国側が、撤去費用が地価を上回る可能性を実際に心配していた証左は、同法律相談の中にも見て取れる。
(問3)地下埋設物撤去に必要な費用が、土地の時価額を上回るような場合にまで貸主が費用負担を行って撤去工事を行う必要があるか。費用が土地の時価額を上回る水準に至れば貸主の義務は緩和されるか。
【回答】
(略)
そもそも土地売買に関する瑕疵担保による損害賠償額の算定の際には、信頼利益の限度で賠償責任を負い、その賠償額は目的物の時価額に限定されるとの議論はある。
しかし本件においては、地下埋設物の存在によって本件報告書等記載の使用目的を達成できない重要な瑕疵について、契約解除、損害賠償責任を免れるために自ら除去工事を行う場合には、契約の使用目的を達成でき、国が算定した貸付額に見合う品質の土地に達する程度の除去工事を行わない場合には、瑕疵担保責任による契約解除、損害賠償責任を免れないという問題であり、上記損害賠償責任の問題とは一線を画し、必ずしも工事額と目的物の時価額の大小を対比するものではない。
法律相談の結果がこういうものだったことから、近畿財務局が
・有益費で処理しなくても良い=値引きで対応できる
・撤去費用が地価を上回らないことを保証できる
という条件を満たすためにたどり着いた結論が「新たなゴミ」スキームだったのではないか。
すなわち、
・「撤去が必要なのは専ら事前に知りえない地下埋設物=新たなゴミである」ということにする
・その撤去費用を大阪航空局に算定させ、森友学園と合意可能かつ総合的な国の収支がマイナスにならない売却額を導き出す
というものである。
参考資料
(土壌汚染及び地下埋設物)
第5条 乙は、平成26年11月7日及び平成26年12月17日に甲が引き渡した「大阪国際空港豊中市場外用地(野田地区)土地履歴等調査報告書 平成21年8月」、「平成21年度大阪国際空港豊中市場外用地(野田地区)地下構造物状況調査業務報告書(OA301)平成21年1月」、「大阪国際空港場外用地(OA301)土壌汚染概況調査業務報告書 平成23年11月」、「平成23年度大阪国際空港場外用地(OA301)土壌汚染深度方向調査業務報告書 平成24年2月」(以下「本件報告書等」という。)に記載の地下埋設物の存在及び土壌汚染の存在等を了承するものとする。
2 乙は、前項の内容に加えて、貸付財産のうち一部471.875m2が、豊中市より土壌汚染対策法第11条第1項で定める形質変更時要届出区域に指定されていることを了承するものとする。
3 乙は、前2甲を了承した上で本契約を締結するものとし、本件報告書等に記載のある汚染物質、地下埋設物等の存在及び形質変更時要届出区域の指定を理由として、瑕疵担保責任に基づく本契約解除及び損賠賠償請求並びに貸付料の減免請求等を行わないことを、甲に対して約する。
(土壌汚染除去等費用)
第6条 乙が、前条第1項記載の土壌汚染、地下埋設物の除去を行い、それによって貸付財産の価値が増大した場合の除去費用は有益費とする。
2 前項の有益費は、本契約終了の時に、貸付財産価格の増加が現存する場合に限り、乙が支出した費用のうち甲の基準による検証を踏まえて乙と合意した額又は貸付財産価格の増加額のいずれかを甲が選択の上うえ、乙に対して返還する。
3 甲は、前項の規定にかかわらず、甲が返還すべき有益費の金額査定につき、本契約終了前においても、貸付財産価格増加の現存額算定の基準時期を指定したうえで、前項と同様の方法により甲が乙に返還すべき有益費の額を定めることができる。但し、同金員の返還時期及び返還方法は、甲が指定し、同金員に対しては、返還時期までの利息及び遅延損害金は付さないこととする。
4 前2項における貸付財産価格の増加時は、甲の基準による鑑定評価方法によって定めることの甲は同意する。
5 第2項の返還時期につき、相当の期限を付する必要が生じた場合には、甲及び乙が協議した上で、相当な期限を付した返還時期を定めることができる。
6 第1項の有益費に関して、甲は、乙に対し、乙が、現に行い又は行おうとする土壌汚染又は地下埋設物除去工事に関する一切の資料の提出を求め、その他必要な調査を行うことができる。
森友学園問題小ネタ:平成25年は2015年だと主張する川合孝典議員
このところ再び国会での森友議論をチェックしているのだが、なんと件の土地の登記の錯誤抹消にかかる議論が蒸し返されているのには驚かされた。疑ってかかれば何事も怪しく見える(あるいは因縁をつけられる)のだなあと感慨深い。
本日(4月5日)の参議院財政金融委員会においても、民進党・川合孝典議員がこの点を質問していた。そのなかで、さすがに「これはひどい」と思わざるを得ない点があり、twitterを見てみても誰も指摘していないようなので、小ネタとして拾っておく。
43分30秒あたり(文字起こしはケバ取りしたもの)
登記の、森友学園の土地の全部事項証明書というのをコピーをさせていただいております。4番の資料をご覧いただきますと、上から4段目のところに、錯誤による所有権抹消という手続きが取られている...平成25年1月10日ということでございますが...
54分10秒あたり
ちなみに、私、この事に気がついた理由は、1月の10日にこれ錯誤抹消の手続き…2015年1月10日に錯誤抹消されていますが、この直前に何があったのかというと、2015年1月8日の日に、産経のインターネット記事に、安倍昭恵夫人が学園を訪れて教育方針に涙をされたという…昭恵さんがされて、さらにはその次の日ですね、手続きをちょうどはじめた日、財務局が学園を訪問し、土地の貸付料の概算を伝えた日なんです。だからこのことを指摘してるんです。
登記手続きがあったのが、最初は平成25年だと言い、後に2015年だと言っている。正しいのは平成25年である。登記内容は
「錯誤」登記の補足と、安倍首相の「森友学園切り捨て答弁」 - ゴー宣ネット道場
こちらから画像をお借りして貼り付けておく。
そしてもちろん、平成25年は2013年である。安倍昭恵や近畿財務局が学園を訪問した2015年1月はその2年後である。従って理由がなくなったので、川合議員はこのことを指摘するのをやめるべきだろう。
だいたい、錯誤抹消の直後に近財が学園に訪問など、少しでもまじめに森友学園問題について調べたのならば、そのような時系列になるはずがないことは直感でわかるものだ。
まじめにやれ、の一語に尽きる。
森友学園問題:迫田氏を証人喚問して何を聞くのか
佐川宣寿前国税庁長官に対する証人喚問が、これといった成果なく終わったことから、さらなる証人喚問を要求する声が高まっている。
特に迫田英典元理財局長に関しては、佐川氏が、自身が理財局長に就任するにあたり、森友学園に関して迫田氏からの引き継ぎは無かったと証言したことから、その注目度が高まったように思える。
しかし私は、迫田氏を喚問しても今回同様の無益な喚問にしかならないと(現状では)思うので、この記事ではそのことについて記す。
森友学園問題に関して迫田氏が疑惑の目を向けられる理由は、大きく分けて2つある。一点目は迫田氏が、森友学園に対し国有地の売却がなされた時点での、財務省理財局長であったということである。理財局長は国有地の売却を所管する部局の長であるから、その立場を利用して、例えば値引きをするように指示をしたのではないか、といったようなことが言われている。
あまり顧みられることがないが、迫田氏はちょうど約1年前の2017年3月24日に参議院予算委員会へ参考人として招致され、己と森友学園の案件との関わりについて「丁寧な説明」を行っている。
○西田昌司君 (略) あの土地の売却について特段政治的な配慮も、皆さん方がいわゆるそんたくをしたということもなかったと思いますが、その辺の事実関係についてお一人ずつお答えください。
○参考人(迫田英典君) お答えを申し上げます。
この事案につきまして私が政治的な配慮をしたのかというふうな御質問と受け止めまして、申し上げたいと思いますけれども、まず、理財局長当時、私は本件について報告等を受けたことはございません。少しここは丁寧に御説明をさせていただきたいと思います。
個別の普通財産の管理処分、これにつきましては、国有財産法並びに普通財産取扱規則に基づきまして財務局長に分掌をされております、事務が分担をされているということでございます。
一方で、一般的にこうした個別財産の処分に関する法令解釈、こういったものにつきましては、各財務局から本省の理財局の担当課室に報告なり相談がなされるということでございまして、本件につきましても、法令等に反しないかといったような観点から本省理財局は相談を受けていたというふうに承知をいたしております。
全国の財務局で売払い等の処分がなされる国有地でございますけれども、これは年間四千件を超えているわけでございまして、全ての事案が本省理財局に報告、相談されるわけではございません。
また、本省理財局に上がってくる案件のうちでいわゆる理財局長まで報告、相談がなされる案件は、私の一年間を振り返っても極めて限定的でございます。それは、私どもに、私のところに上がってこない案件につきましては、それぞれの担当部署が責任を持って対応するということになるわけでございまして、要するに、御質問に戻りまして、本件について私が政治的な配慮をしたのかということに戻りますと、今言ったような事情でございますので、政治的な配慮をするべくもなかったということでございます。
あわせまして、本件に関しまして、私に対して国会議員の方を始めとした政治家の方あるいはその秘書の方等からの問合せ等は一切ございません。
以上でございます。
私はこの説明は、国有地の処分の事務の分担の一般論としては完璧だと思うし、その一般論を打破することのできる、個別的ななにがしかの証拠・事実に類するものは一切出てきていないと思う。
先日太田理財局長が、一連の決裁文書の最終的な決裁権者が誰だったのかを問われて、それは近畿財務局の管財部次長であると答えたとおり、国有地の貸付から売却に至るまで、事務的には近畿財務局の中で完結しているのである。
唯一、土地の貸し付けに関する特例承認を財務本省に求めた件だけが、財務省理財局が決裁に関与した件であるが、その時点(2015年4月30日)では迫田氏はまだ理財局長に就任していない。迫田氏の理財局長就任は2015年7月になってからである。しかも同決裁は理財局次長が最終決裁権者となっており、理財局長まで決裁があがっていくような案件ではない。
迫田氏のこの説明を完璧だと思ったのは私のみならず、野党議員の面々も同様だったはずだ。というのも、前掲の迫田氏の答弁は、会議の冒頭で自民党の西田昌司議員から発せられた質問に対するものであったが、野党議員はこの説明を聞かされて以後、迫田氏に対してぐうの音も出なかったからである。
この会議中、野党議員から迫田氏に対する質問は、わずかに大塚耕平議員が
○大塚耕平君 (略)
今日は国税庁長官と国際局長においでいただいています。まず、国税庁長官にお伺いいたしますが、このお手元の経緯表にもありますように、総理の御夫人が森友学園で講演をされた平成二十七年の九月五日の直前に、理財局長、当時の理財局長として迫田さんは総理と面会をしておられますが、報道によっては三日と書いてあったり、一部の報道では四日と書いてあったり、三日と四日両方というのもあって我々もよく分からないんですが、事実関係を、これ通告してありますので御確認いただいたと思いますので、正確に、その直前の九月の三日又は四日、あるいはその両日、総理とどういう御用件でお会いになったのかという事実関係をお答えください。
○参考人(迫田英典君) お答えをいたします。
一昨年の九月に私は総理のところに御報告に参っております。日付は九月の三日であります。その理由は後ほど申し上げます。案件は、日本郵政グループ三社の株式の上場でございます。
一昨年の秋、この日本郵政グループ三社の株式の上場というのは理財局の大変大きなイシューでございました。したがいまして、それ以前にも総理のところには御報告に行っていたと思いますけれども、このタイミングで改めまして検討状況の御説明、それから足下の株式市場あるいは経済情勢等の状況というものを踏まえまして、九月の十日に売却手続の開始、委員よく御案内のとおり、ローンチと申しますけれども、これをするというふうなことを口頭で御説明をしたわけであります。
九月の三日という意味合いは、当初、私の記憶、やや曖昧なところありましたけれども、今申し上げたように、ローンチ日が九月の十日でございまして、その一週間前ということでございました。
それで、九月の上旬というのは、これも委員も御記憶のとおりと思いますけれども、あの年、八月のお盆前までは株式市場は比較的堅調でございました。お盆明けになりまして、マーケットではチャイナ・ショックというような言い方をしておりましたけれども、非常に値崩れをしたわけでございますから、それ以前にも御説明をしておりましたけれども、ローンチの一週間前というタイミングで改めてやらせていただきたいということを御報告に上がったということでございます。
と、迫田氏に疑惑の目が向けられるもう一つの理由である「疑惑の3日間」と呼ばれる期間の、安倍総理と迫田氏の面会内容を問い、きっぱり説明されてしまったのと、
○大塚耕平君 その直前、九月三日の直前の八月二十六日に森友小学校の建設予定地で埋蔵物が発見されて、二十七日に近畿財務局と大阪航空局で現地調査をしているわけですが、この事実関係は、当時の理財局長ないしは当時の近畿財務局長として間違いないですか。
○参考人(迫田英典君) お答えをいたします。
今日の午前の西田委員の御質問に対してお答えをいたしましたけれども、私は、理財局長に在任時代、その森友学園の件については報告等を受けておりませんので、その間の事情については承知をしておりません。
○大塚耕平君 (略)当時の理財局長、まあ全部の案件を知っている必要はないかもしれませんが、何か自分の管理に落ち度なり瑕疵があったとは思われませんか。
○参考人(迫田英典君) お答えをいたします。
こうした個別の普通財産の管理処分は、先ほど申し上げたような法律、規則等で適切に分掌されておりまして、その範囲において権限者が適切に対応したものと思っております。
と、2件質問するも、軽くいなされたのみであった。あれだけ野党揃って呼べ呼べと言っておいて、これだけ、たったこれだけなのである。
特筆すべきは森友問題の追求で名を上げた感のある、共産党の辰巳孝太郎議員である。辰巳議員はそれまでの国会で
平成29年03月06日 参議院会議録情報 第193回国会 予算委員会 第7号
○辰巳孝太郎君 (略)
真相解明のためには、籠池氏本人や当時の責任者の迫田理財局長、これの国会招致を強く求めたいと思います。
平成29年03月10日 参議院会議録情報 第193回国会 予算委員会 第10号
○辰巳孝太郎君 偽証罪にも問われる、籠池氏、迫田氏の証人喚問を強く求めて、私の質問を終わります。
平成29年03月21日 参議院会議録情報 第193回国会 財政金融委員会 第4号
○辰巳孝太郎君 (略)真相究明のためには、当時の財務局、理財局、責任者である迫田前理財局の局長を参考人としてこの委員会でも招致願いたいと思います。委員長、お計らいください。
と繰り返し迫田氏の招致を要求しており、実際に参考人招致があった当日の質問でも
○辰巳孝太郎君 (略)
さて、今日は、迫田前理財局長、武内前近畿財務局長、よくぞお越しいただきました。できればですね、できれば証人喚問でお越しいただきたかったというふうに思いますが、(略)
と先制ジャブを繰り出した。
当時ネットで中継を見ていた私は、これは何か面白いやり取りが見れるかと期待したものだった。しかし辰巳議員は結局、迫田氏に対しては何一つ質問しなかったのである。
そもそも事務の分担の話などは、ちょっと事前調査をすれば分かる話なのではないか。そのような事情を踏まえてなお疑うべきところや直接確認したいことがあるから、国会招致を求めたのではなかったのか。
国会に呼べ呼べと言っておいて実際に呼んだらろくに質問もせず、1年経ってまた呼べという。迫田氏が潔白だったとしたら、これはどれだけ無礼なことだろうか。
野党が迫田氏の証人喚問を求めるのであれば、少なくとも迫田氏の「丁寧な説明」に対するまともな反論を示し、証人喚問の必要性を説明するのが筋というものである。
それができていない状態では、仮に証人喚問が実施されたとしても、昨年の参考人招致時と全く同じ展開になることを予想せざるを得ない。
森友学園問題:大阪音大交渉時の産廃処分費用見積の異様な安さについて
個人的に森友学園問題は一服感があった昨年末、特別国会も閉会間近というところで、森ゆうこ議員が興味深い資料を発掘してくれた。
(元記事が消えているため、はてブのリンクを貼った)
資料自体を森議員の公式サイトからダウンロードすることもできる。
http://www.mori-yuko.com/activity/files/haifu.pdf
一見して興味深い内容を含んでいたが、その後特に注目されることもなかったため、記事にすることもしなかった。
しかし最近になって森議員が
森友
— 参議院議員森ゆうこ (@moriyukogiin) 2018年3月12日
国土交通省案件でもあることをお忘れなく
ゴミの撤去費
別の学校法人買い受け要望時 約8千万円
森友への払い下げ時 約8億円
と、再度この件を取り上げたので、おそらくこれまで誰も書いていない内容であろうことや、当ブログへのアクセスとして多いのが大阪音大との交渉経緯を紹介した記事であることを踏まえ、記事に残すこととした。
さて、見ていただきたいのは上掲pdfの1~4頁である。
この資料がどういう性質のものであるかは、森議員自身の国会での発言を引用することで説明と代えたい。
参議院会議録情報 第195回国会 文教科学委員会、内閣委員会連合審査会 第1号
○森ゆうこ君 (略)
この森友学園が買う以前に別の学校法人が買受けを要望していて、実は七億で買いたいと言っていた、しかし予定価格に合わなかったので買受けを断念したと。そのときにはきちんと鑑定評価に基づいて評価調書を作っていたという報告がございます。
これを根拠に、廃棄したとはもう言えないでしょうということで、十日掛かりましたが、やっと出てまいりました、評価調書。この森友学園の前の、取得を断念した他の学校法人のときに作った評価調書では、この森友学園にただ同然で売り払った土地の価格は一体幾らというふうに評価されておりますか。
○政府参考人(富山一成君) 先生御指摘の森友学園の前の事案につきましては、九億三百万円でございます。
○森ゆうこ君 これに関しては、地下埋設物、つまりごみの撤去費用は算定して、それは引かれての評価額だということでよろしいですね。そして、その額も教えてください。
○政府参考人(富山一成君) 今先生おっしゃいましたように、撤去費用を差し引いたものがこの評価調書に載っております。その金額につきましては、八千四百三十七万二千六百四十三円でございます。
大阪音大との売却交渉においては、従前に行われていた地下構造物調査で判明していた地下埋設物を実際に撤去するとなればいくらになるのかという撤去費用の見積もりを、なかなか大規模な調査により実施していた。
調査方法は、
- 敷地全体で68箇所を試掘し、およそ1000m3の掘削土をサンプルとして得る
- 試掘面積は343m2で、深さは約3m
- サンプルから、処分費が必要な地下埋設物の量を測定する
- 得られた埋設物の量に、別途計算した係数を掛け合わせ(約16倍)、敷地全体の地下埋設物の量を推定する
- 処分費用を含まない純粋な工事費についても、同様に試掘の実績値を約16倍して算出する
というものである。
そうして得られた撤去費用見積が、8437万2643円である。この金額に除染費用の4390万円を加えた約1億3000万円というのが、大阪音大との交渉時に国が示した値引き額であったという。
先の特別国会から見えてきた森友問題の新たな実態 | ビジネスジャーナル
確かに撤去費用について森友学園の約8億円と比べると10分の1となるが、内訳を詳しく見ていくと、そう単純な話ではない。
撤去費用 = 純工事費 + 産廃処分費 であるところ、純工事費については大阪音大と森友学園で大差はない。一方で産廃処分費については、大阪音大が約280万円に対し森友学園が約4億4000万円と、157倍(!)もの差があるのである。
下記画像は資料の評価調書から引用した、撤去費用の内訳部分である。(赤線引用者)
(森友の金額については冗長になるのでここで詳しくは述べない。会計検査院の資料を参照)
体積の比率からして費用の大部分を占める廃材・ゴミ処分費の単価が、「400円/m3」とされている。
いったいこの400円/m3というのは、どこからきた数字なのだろうか。「処分費(豊中市)」というのもよくわからない記述である。豊中市の指定ごみ袋の値段を調べてみたら、おおよそこれくらいの値段になるのだが、まさかそのような数字を単価として使うはずもあるまい。
m3⇔ t(トン) の変換を考慮に入れても、その後実際に有益費で処理された地下埋設物除去工事での実績値と比べて、あまりに安いように思われる。
近畿財務局・大阪航空局としては、この時の見積が念頭にあり、敷地全体の埋設物を撤去してもこの程度の金額で済むという認識だったのだろう。
しかし実際に工事をしてみたら、「北東部分だけの産廃だけで約4000万円」「すべて撤去となると膨大な金額」「地価を上回る瑕疵」という事態になってしまったのは、当ブログで文字起こしした「業者側の記録」に記されているとおりである。
仮にこれが何らかの見積もりミスであったとしたら、現在の政治状況を鑑みるに、なんとも罪作りなミスである。
森議員には、このあたりを含んださらなる追求を期待したい。
森友学園問題:私のやらかしについて
前記事の判断の背景についてくだくだ書こうかどうか迷ったけれども、有限なリソースを国有地処分問題の分析に振り向けるべきだと考え、朝日新聞社及び記者の方々に対し詫びることのみに留めておくこととした。
こんな泡沫ブログの影響力などありはしませんが、大変失礼いたしました。