続・反社会的勢力の定義について

前記事では金融庁パブコメや過去の国会答弁等を引用して、反社会的勢力についての政府の考え方が従来の考え方を踏襲したものであることを示した。

その後、ネットで資料を漁っていたらもっと良い資料があったので紹介する。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/hanzai/pc/070427bessi1.pdf

これは犯罪対策閣僚会議、すなわち件の指針を策定した主体が募集したパブコメへの回答である。

まずはこのやり取り。

○ 反社会的勢力の示す範囲が悪意を持って拡大され、労働組合や被害者団体もしくは社会的な利害対立関係にある団体(例えば環境保護団体等)の正当な権利を侵害しないよう、さらに明確化されることを望みます。

○ 近年顕著化している新興宗教や特定思想団体等の思想信条の自由を悪意的に濫用しているものに対する対策について不十分な内容であると見受けられるので、安易ではないこの問題に対する指針を盛り込まれる事を強く望みます。

との御意見を頂きました。

<考え方>

本指針には、【暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人である「反社会的勢力」をとらえるに際しては、暴力団暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団といった属性要件に着目するとともに、暴力的な要求行為、法的責任を超えた不当な要求といった行為要件にも着目することが重要である。】と記載しています。

反社会的勢力のとらえ方について、悪意を持って拡大解釈し、正当な権利を侵害してはならないということは、正に御意見のとおりであり、労働組合や被害者団体等は反社会的勢力には該当しないものであります。ただし、例えば、暴力団労働組合等の活動を仮装して、暴力的な要求行為をしている場合には、当然、当該暴力団は、反社会的勢力であります。

また、例えば、暴力団が、宗教団体等の活動を標ぼうしながら、暴力的な要求行為等をしている場合には、当然、当該暴力団は反社会的勢力でありますし、また、暴力団ではなくても、ただ単に思想の自由等を悪意的に濫用しているものについて、暴力的要求行為といった行為要件に着目することにより、反社会的勢力ととらえる事は可能であると考えます。

労働組合や被害者団体等は反社会的勢力には該当しない」という表現で、範囲がやや明確化されているが、いささか肩透かしな内容である。「記載しています」で終わっているあたりは、「定義」という言葉を意図的に避けている感もある。

次にこちらのやり取り(抜粋になる)。

(略)

○ データベースに情報を提供するにあたっては、反社会的勢力の情報に関する定義・範囲を明確にする必要があるとともに、警察による情報精査が必要である。

(略)

 との御意見を頂きました。

<考え方>

(略)

反社会的勢力の定義や範囲についてでありますが、警察庁の組織犯罪対策要綱(警察庁ホームページに掲載)において「暴力団暴力団関係企業」「総会屋」「社会運動標ぼうゴロ」等の属性要件は、既に定義付けされており、これらは各企業に共通するものと考えます。

他方、「暴力的な要求行為」等の行為要件については、業種によって、その具体的な行為態様が異なるものと考えますので、業界の実態に応じて、更に具体化した定義等を策定していただくのが適切であると思います。

例えば、銀行業界で言えば、

○ 当行との取引(口座開設、融資、返済等)に関して、脅迫的な言動をし、又は暴力を用いたとき

○ 風説を流布し、偽計を用い又は威力を用いて当行の信用を毀損し、又は当行の業務を妨害したとき

○ その他これらに類する止むを得ない事由があったとき

等の具体化が考えられます。

今度は「定義」という言葉が現れた。これによれば、ポイントは「属性要件」「行為要件」である。野党や各報道機関が「定義した」とする「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」ではない。

前記事の結びで書いた通り、組織犯罪対策要綱(リンクは指針公表当時のものではなく最新版)で定義付けのある属性要件は業種を問わず反社会的勢力に該当する。

一方で行為要件の方は、暴力的や威圧的といった抽象的な行為様態ではなく、「口座開設」であるとか「当行の」といった、業種に結びついた個別具体的な内容を想定しているようだ。

もとより当該指針は全企業=全業種を対象にしたものであるから、反社会的勢力の定義の一部である行為要件がそのようなものであれば、定義全体としては「限定的・統一的」なものにならないのは自然である。

ただし、その指針が各省庁に下りた段階で、本来は行為要件の具体化=定義の明確化を行うつもりだったのではないかという疑問は残る。「反社会的勢力はその形態が多様であり、また社会情勢に応じて変化し得る」という説明は、省庁レベルでの具体化が困難だったことを糊塗する後づけ(ただし先日の答弁書においてではなく、2008年頃の時点で)の方便のようでもある。と、ここは裏付けのないただの感想。

もうひとつ蛇足を付け加えると、前回「十分条件の一つ」と書いて評判の悪かった(実際間違っているのかどうかは結構気になっている)「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」を何だと捉えるべきか。改めて案ずるに、「主要な類型」ではどうだろうか。そこから外れるものもあるから定義ではない。でもザックリ言うとそんな感じ、という類のもの。